書評『あなたのこども、そのままだと近視になります。』慶應義塾大学教授・坪田一男


取材や資料集めのなかで出会った本を紹介していくこのコーナー。
今回紹介するのは、「近視は予防できない」という通説を覆し得るという大見得を切った一冊。慶應義塾大学医学部教授である著者が発見した、「バイオレットライト」の近視予防作用を紹介している。

これだけ聞くとインチキ療法を扱った本に思えるかもしれないが、データに基いて近視にまつわるうわさを検証したり、最新の治療法を解説したりと、「近視」について一通りを学べるオススメの一冊だ。

スポンサーリンク


1.著者について

著者は慶應義塾大学教授の坪田一男先生。ブルーライトやドライアイなど、私たちの身近な目の悩みについて研究を進めているので、名前を知っている方も多いのでは。
一部ではメディア露出が多い方ことで胡散臭く思われているようだが、眼科領域で論文を検索すると必ず慶應の眼科学教室に行き当たる。そこのボスが、坪田先生。つまり、実際すごい人なのだ。

この人の本の特徴は必ず「アンチエイジング」に着陸すること。坪田先生は眼科医でありながら、アンチエイジングが専門という面白い人なのだ。
しかし、目の病気といえば白内障だったり老眼だったり、年を取ったあとに表れる病気が多いことに気づく。「老化を防ぐことは、多くの眼病の予防にもつながる」という坪田先生の考えは、意外に理にかなっているのだ。

2.世界規模で増える近視とその危険性

この本の冒頭は、時事ネタとしても興味深い。「眼鏡やコンタクトの人が増えたなぁ」とみんな一度は感じたことがあると思うが、なんと近視は世界規模でWHO(世界保健機関)が「ハザードレベル」と注意を促すほど増加しているというのだ。
2015年に「Nature」で発表された論文によれば、2020年までに世界人口の約3割にあたる25億人が近視になると推測されている。すでに日本でも、2013年に発表された『平成25年度学校保健調査速報』によれば、高校生の65%が視力1.0未満だという。

「別に近視くらい、眼鏡やコンタクトを付ければ……」と思うかもしれないが、近視の進行が進んで病的近視となることがあり、最終的に失明に至るケースもあるという。
実際に強度近視(近視の進行した状態)は、日本国内の失明原因の第5位となっており、近視が増えることは失明が増えることにつながると警鐘を鳴らしている。

3.近視の原因と「バイオレットライト」の可能性

意外にも近視の原因はまだはっきりとわかっていないのだが、環境と遺伝による影響が大きいといわれている。
とくに遺伝は、「両親ともに近視ではないまたは片方の親のみが近視の場合」と「両親ともに近視の場合」では、後者の子どものほうが近視になりやすいという報告が挙がっている。

ただ、両親ともに近視だからといって、必ず子どもも近視になるわけではない。環境によって、近視は抑制されることもあるし、促進されてしまうこともある。
環境のなかでも「屋外活動の長さ」は近視抑制に深い関係があるとわかっており、「屋外活動の短い子ども」は、「両親ともに近視の子ども」よりも近視になりやすいという報告がある。

そこで坪田先生は、「屋外活動の長さ」が近視を抑制する理由として、「380nmの光」が関係しているという仮説を立てた。
この仮説は、強度近視の矯正法の一つとして採用されている、眼内レンズを埋め込む方法(簡単に言うと、コンタクトレンズを目に埋め込む術式)から生まれたもの。
この方法は近視を矯正するだけなので治療後も近視が進行し続けるリスクがあったのだが、眼内レンズを入れた患者の多くは近視が進行しなくなったのだ。よくよく調べてみると、380nmの光を通すシリコン製の眼内レンズを入れた患者は、近視が進行していないという事実に行き当たる。
つまり、380nmの光が近視を抑制していると考えられるのだ。

この仮説をもとに慶應義塾大学で行われた動物実験でも、380nmの光が近視の抑制に働きかけることがわかった。
また、宮城県の加藤医師のデータからも、380nmの光を通さない眼鏡を使う人と、380nmを通すコンタクトレンズを使っている人では、380nmの光を通さない眼鏡を使う人のほうが近視が進行しているということがわかった。

380nmは人の目で紫色として見える光であるため、坪田先生は「バイオレットライト」と名付けた。実はこの「バイオレットライト」、ちょうど可視光線と紫外線の中間にあたり、世界中で広まっているUVカット(400nm以下の光をカットする)によって届きにくくなった光でもある。
現在の眼鏡や家屋のガラスなどは、標準的にUVカット仕様。また、蛍光灯やLEDから発せられる光には、バイオレットライトは含まれていない。現在の人々は、極度にバイオレットライトから遠ざかる環境に置かれているというわけ。これは、近年になって近視が増加している現状と重なるといえる。

4.まとめ

あくまでもバイオレットライトの研究は始まったばかり。今後の研究で、あっさりと覆ってしまうかもしれない。
しかし、この本は近視の原因を検証したり、レーシックやコンタクトレンズを用いた最新の近視治療などを解説したりと、近視について一通り学べる本となっているので損はしない。

とくに子どもの近視が心配という方には、ぴったりの一冊だ。妙な薬剤や怪しい目の体操などの紹介はなく、生活のなかで改善すべき習慣が解説されているので、参考にしてみると良いと思う。


スポンサーリンク